君に心を奪われて


食欲が無く、吐き気ばかりがする。つわりとほとんど変わらない気がする。


病院に行くのも二週間に一回へと変わった。それほど重要な時期なのだろう。


「性別は女の子ですね」


先生の言葉に私達はハイタッチをした。どんな性別だろうと翼の子供だからすごく嬉しい。


「先生、相談していいですか?」


突然、翼がそんなことを言い出した。先生が首を傾げた。


「最近、腰が痛いんです。鏡で見たら痣があって、息が苦しくなったりするんです」


先生は翼の言葉に眉間を寄せた。私はよく分からなくて首を傾げていた。


「すぐに血液内科の方に行ってください!子供が居るならなおさらです!」


先生が焦った顔でそう言った。私達は言われるがままに血液内科に向かった。


「白血病ですね。かなり進行していますね。即入院してください。子供が居るなら早く治した方がいいです」


血液内科の先生にそう言われて、翼はただ固まっていた。


「俺、死ぬんですか……?」


「はい。一刻も早く治療しないと」


誰かの命を救った代償が今に起きてしまったのだ。私が友達なんか作らなければこんなことにならなかったのだ。


「翼……」


申し訳無さに涙が零れていく。いや、翼を失うのが嫌なんだ。


「花菜、入院するよ。子供の顔見たいし」


私は翼の言葉に頷くことしか出来なかった。翼のお父さんが言っていた言葉を思い出す。


自分の運命を変えた代償もかなりキツイという。残酷な運命を最期に辿るらしいのだ。


翼はまた真っ白な部屋でたくさんの機械を身に付けて眠るのだ。そんなのはもう見たくなかった。


誰かが死ぬのは嫌だ。大好きな翼が死ぬのは嫌だ……。


「ごめん、花菜」


「いや、私がいけないの。友達なんて居ない方が……」


「だから幸せなんだろ?友達が居るという別の幸せを、別の愛を知れたじゃないか」


そうだった。常に私達は何かに繋がっているような感覚で一緒に居るだけで楽しかった。翼からもらうものとは違うけど、友達からもらうこそ知れる幸せと愛を知れたのだ。


「お前も知らないうちに誰かを救ってるんだよ。そして、俺らも誰かに救われている。自分自身も救われているんだ」


病室の窓から夕陽が射し込んで翼の顔がよく見えなかった。


「お前は、ちゃんと……生きろ……」


翼の声が涙声のように聞こえた。きっと翼も泣いてる。こんな現実を受け入れたくないのだろう。


「俺、死にたくない……」


翼の嗚咽が病室に響き渡った。


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