転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
きっとこの人は自分が言っていることがほんの数秒前と矛盾していることにすら気づいていないんだろう。
私だって馬鹿でも阿呆でも愚かでもない。王子が私をここから去らせるために、わざと嫌われようとあんな脅し紛いの事をしたのだということくらいわかる。

下手に色々なことに気がついてしまうと、この人の質を知ってしまうと、簡単に離れられなくなってしまう。そんな不思議な引力を持っている。

この不器用な王子様は、素直じゃなくて天邪鬼で、本当にどうしようもないひとだ。

ずっとそばにいる約束はできないけれど、私はひとときの契約のために肩を竦めて微笑んだ。

「危険だと思うなら、あなたが私を守ってください。それでいいんじゃないですか?」

「……図々しい女だな」

グイード殿下は身体中の空気を全て出し尽くすような大きなため息をついた。でも今更騙されない。ほんの少し唇が弧を描いていることに気づかないはずがない。

「もう知らないぞ、出て行きたいと泣いても」

「泣かないで済むようにしてくださいよ」

「……ふん、善処はしよう」

相変わらずだなぁ、と笑う私の上に影がかかった。じりじりと近づいてきていた美貌を力いっぱい手で押さえる。

「え?え、ちょっと!なにしてるんですか!」

「何って、わかるだろう」

「言葉通りに受け取るな!やめろって意味ですよ!」

「今どうしようもなくお前にキスしたい気分なんだが。
夫婦ごっこなら、ここまで付き合ってくれてもいいんじゃないか?」

「は!?何でそうなるんですか!嫌ですやっぱ花嫁なんてやめます出て行かせてください!」

「もう駄目に決まってるだろう。大人しく諦めろ」

ふはっ、と声を立ててくしゃりと顔いっぱいで笑う。何か吹っ切れたような、そんな顔だ。

笑いながら近づいてくる王子を必死に躱しながら、私は大きく首を傾げた。

あれ?どうしてこうなった?

……あれっ?

私と王子の追いかけっこは、激しい足音に異変を感じた衛兵が部屋に飛び込んでくるまで続いた。
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