転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「……殿下」

「俺は権力なんかに興味はない。ただ母の存在を残すために王になりたかった。かと言って生に執着はなかった。寧ろ死んでしまえば母に会えるかもしれない、くらいに思っていたんだ」

その言葉に、剣を振り上げた姿や金のカップを持ち上げた姿が脳裏をよぎる。

「殿下っ!」

震える声で呼んだ私に、赤目の王子はふっと唇を緩めた。

「どうしてお前が泣きそうなんだ?」

「だ、だって……」

王子の目が私の目を捉えた。アガットの瞳が揺らいで見える。出会った時のような塗り潰されそうな色合いではなく、深くきらきらと輝く赤。

「でも今は違う。俺が王になった時、お前に横にいて欲しい。何なら王になれなくてもいいと思う……お前と居られれば」

グイード殿下の指が頬に触れる。かっと顔が熱を持つのがわかった。嫌じゃない。嫌じゃないから……どうしていいかわからない。

「お前はどうするんだ?」

「……私には、あなたのそばを離れる理由は……特にないですし。しょうがないからここにいてあげます」

「これで本当に最後だぞ。俺は多分、もうお前を離せない。俺が王になれなくても、赤目でもいいのか?」

「私は……あなたの、そばにいるって言ってるじゃないですか」

「まったく、面倒臭い女だなあお前は」

頑なにそれ以上の事を口にしない私に、グイード殿下はくしゃりと破顔する。その笑った雰囲気が母にそっくりだと、彼は気づいているのだろうか。

「すぐにその気にさせてやる」

「……私は……そんなに簡単じゃありませんよ?」

嘯いた私の唇に、王子が触れるだけの優しい口づけを落とした。
< 48 / 100 >

この作品をシェア

pagetop