限定なひと

 微かな寝息が懐から聞こえる。
 腕の中に設えたように納まる彼女を見ていると、愛おしさで狂いそうになる自分を深呼吸で落ち着かす。しっかりと閉じられた目元が赤くなっている。
 ふいに、さっきまで大泣きに泣き乱れていた彼女の姿が脳裏を掠めた。
 彼女が俺の前で、大声を上げて喚くように泣いたのは、実はこれが二度目。きっと彼女は初めてだと思っているだろうけど、初めて酔潰れた時、わんわん声をあげて泣きながら俺に抱かれていたのは、覚えていないんだろう。
 箍が外れる。あの時は正にそんな感じだった。
 職場での彼女がそんな過去など無かったかのように、あまりにも穏やかだったから、正直安心、いやちがう。油断していた。
 楽しそうに酔いつぶれて、ふらふらと俺の首筋に腕を回して、上目づかいで誘うから、嬉々として場末のホテルへと縺れ込んだ。
 でもその実は全然違った。
 強かに酔っ払った彼女が、俺とあの男を混同していると気づいた時の衝撃は未だにしっかり覚えている。
 こっちがリードする前に、慣れた手付きで粛々と手順を踏んでいく彼女に主導を握られてしまった俺は、正直、面白くはなかったけど、直ぐに彼女の柔らかな舌触りにどうでもよくなって、されるがままになっていた。
 時々上目づかいでこっちを見る瞳が、酔いが回ったせいなのか、妙に潤んでいて俺を堪らない気持ちにした。
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