しあわせ食堂の異世界ご飯2
「確かに受け取った。……まだ温かいな、いい匂いだ」
 リントがふわりとほほ笑んで、アリアはドキリとする。
 喜んでもらえたことが嬉しくて、けれどしばらく会えないということも思い出して、寂しい気持ちも込みあげてしまう。
「アリア?」
「……いえ。なんでもないですよ」
 本当は少し甘えたいけれど、忙しいリントに迷惑をかけるわけにもいかなくて、アリアは強がって首を振る。皇帝である彼に、寂しいなんて我儘は言えない。
「お仕事、頑張ってください。私は、ちゃんとここで待っていますから」
 だから早く迎えに来てくださいねと、微笑む。
 リントはアリアの言葉を聞いて、大きく息をつく。そんなの、言われなくたってわかっているのだ。
「リントさん?」
 ふいに場の空気が変わって、アリアは目の前にいるリントをじっと見つめる。しかし、そこにいたのはリントではなかった。
 普段より少し細められた彼の瞳に、ドキリとする。
「可能な限り、早く終わらせる。でも、何かあったらちゃんと連絡をしてくれ。シャルルから大臣経由でもいいし、朝にいた兵士を伝言役にしても構わない」
「っ、リ、リベルト陛下……!」
 普段と違う雰囲気で、声にはリントより色が含まれていてさらにドキドキしてしまう。目の前にいるのは、リントではなくこの国の皇帝であるリベルトだ。
 リベルトの手が、優しくアリアの頬に触れる。けれど、アリアはそれを制す。
「駄目です。誰か来たら、ばれちゃいます」
 アリアは両手で、近づいてくるリベルトの胸を押し返す。
 この場所からは見えないけれど、厨房の奥にはカミルがいるし、勝手口を出た裏庭ではシャルルが鍛錬をしている。
 二階の自室にいるエマだって、いつ一階に下りてくるかわからない。
「……アリア」
 いっそばらせてしまえたら――なんて。
「早く、この腕で抱きしめたいな」
「っ!!」
 少し身を屈めたリベルトが、アリアの耳元で優しく囁く。
「そういうの、反則です……!」
 リントのときはまったく近くにこないのに、いざリベルトになると一気に大胆になるから困る。
「すぐ迎えにくるから、待ってろ」
「……はい」
 ぽんと頭を撫でられて、寂しさがなくなった。
 些細なことなのに、心がぽかぽかするから不思議だ。自分もこんな風に、リベルトを支えられるようになりたいと思う。
「じゃあ、俺はそろそろ行くから」
「はい。お仕事、頑張ってください。ご飯はいつでも作りますから、疲れたときにでもきてください」
「そうさせてもらう」
 リベルトからリントの雰囲気に戻り、リントはしあわせ食堂を後にする。
 オレンジ色に染まる道を歩く後ろ姿が見えなくなるまで、アリアはずっとリントを見送った。
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