しあわせ食堂の異世界ご飯2
4 体の芯まで燃える麻婆豆腐
 秋の収穫祭が無事に終わったあと、アリアがキノコ大会で優勝したことによりしあわせ食堂の知名度がさらに上がった。
 まったくそんなことを考えていなかったので、しあわせ食堂の面々はとても驚いた。もちろん嬉しいことではあるのだが、圧倒的に人手が足りない。
 つまり、とてつもなく忙しい。
 そんな中、アリアはふたつの理由からカミルに料理を教えている。
 ひとつ目は、調理の手が増えることだ。忙しいことは、料理人を育てないという言い訳にしてはいけない。
 ふたつ目は、アリアがしあわせ食堂を去ったとしても問題なく営業ができるように……というものだ。
 今のところリベルトから連絡があるわけではないのだが、先のことはアリアにもわからない。早めに準備をしておくことは、悪いことではないはずだ。
 もちろん、エマとカミルに辞める可能性があることは告げていない。

 まだ朝日が昇ったばかりの早い時間、しあわせ食堂の厨房にぎこちない音が響く。その発生源は野菜を切る包丁なのだが、いかんせん扱っているのがカミルなので……リズミカルとは程遠い。
「くっそー、アリアみたいに均一に切れないな」
「慣れるしかないよ。毎日やってれば、すぐすぐ」
「簡単に言うなよ……」
 カミルが切っているのは、カレーに入れるための野菜だ。
 涙目になりながら大量の玉ねぎを切っているのだが、その幅はまちまちだ。
 火の通り具合を考えると、具材は均一に切るのがいいけれど、そこまで味に大差はない。
 なので、のんびり上手くなればいいとアリアは笑う。その手元は軽やかにトトトトッと野菜を切っているので、カミルは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「絶対俺もアリアみたいになってやる」
「……カミルも結構負けず嫌いだね」
 アリアはくすくす笑いながら、切り終わった野菜をボウルに入れておく。野菜の下準備が終わったら、次はカレーの調理に取りかかる。
「確か、最初に玉ねぎだよな。それから肉と、ほかの野菜」
「そうそう。手順、ちゃんと覚えてるんだね」
「毎日アリアが作ってるのを見てるからな」
 調味料の量はわからないが、だいたいの流れは把握しているとカミルは告げる。アリアは優秀だなぁと思いながら、カミルと一緒にカレーを作っていく。
 手順と調味料の分配を間違えなければ、ちゃんと美味しいカレーができる。
 カミルが一緒に作り始めたので、今日からカレーの量が増える。
 なので、少しでも多くの人に食べてもらえたらいいなと思う。……思うのだが、収穫祭の影響でまだまだお客さんが多い状況だ。
 しばらくの間、しあわせ食堂は落ち着かないだろう。

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