しあわせ食堂の異世界ご飯2
 アリアとローズマリーがお店の外へ出ると、並んでいたお客さんが雑談を止めて一斉にこちらを見た。
 見世物にでもされている気分になるが、ローズマリーが一緒だから仕方がない。
 しあわせ食堂の前には豪華な馬車が停まっていて、それも同様に注目を集めている。
(ああぁ、目立ちたくないのに……っ!!)
 穴があったら入りたいとは、このことだろう。
 並んでいるお客さんたちからの視線が痛い。
 ローズマリーはそんな民衆をいっさい気にも留めず、騎士の手を借りて馬車へ乗り込んで、窓から顔を出しアリアに声をかける。
「ごきげんよう、アリア様。またお会いできる日を、楽しみにしているわ」
「はい、ローズマリー様。お気をつけてお帰りください」
「ええ。それではね。……出しなさい」
 アリアと大勢のお客さんが見送る中、ローズマリーはさっそうと馬車を走らせ帰っていった。
(こんなにどっと疲れるお客様は、初めてだよ……)
 大きく深呼吸をして、ぐぐっと伸びをする。しかし、今はまだ休んでいる暇なんてない。
 アリアは順番待ちをしている人に、「大変お待たせいたしました」と声をかける。ローズマリーが帰ったので、ここからは通常営業だ。

 アリアが店内に入ると、厨房の奥にいたシャルル、エマ、カミルが出てきた。
 エマは心配そうにアリアを見て、「大丈夫だったかい?」と気遣う声をかけてくれる。
「私もどう対応したらいいかわからなかったんだけど、シャルルちゃんがアリアちゃんに任せて奥で待ってようって言うもんだからね……」
 店主なのに対応しなかったことを申し訳なさそうにするエマに、アリアは問題ないという意味を込めて微笑む。
「彼女とはちょっとした知り合いなんです。もう帰られたので、外に並んでいたお客さんを店内へお通しちゃいました」
 詳細を求められたら困るので、アリアは仕事を再開しましょうと店内を示す。
 エマもすぐ納得して、シャルルとカミルもそれぞれ注文を取りにお客さんのテーブルへと行ってくれた。
 これで追及されることはないだろう。
(ローズマリー様の件は問題なかったけど、まだやることがあるし……)
 それは、ローズマリーがアリアに耳打ちした内容だ。いい情報ではないのだが、重要な――機密情報の部類にはいるものだ。
 それをこっそり耳打ちで教えてくるのだから、彼女には本当に驚かされる。
 アリアの居場所を突き止めているし、ガセ情報を渡すメリットもないので、信頼性は高いとみている。
 けれど、行動するためには仕事を終わらせなければどうしようもない。
 アリアははやる気持ちを抑えながら、仕事に取りかかった。
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