しあわせ食堂の異世界ご飯2
 しあわせ食堂、営業中。
 午後二時を回ったところで、カレーの残りがわずかになった。なので、外で並んでいるお客さんにあと何人で営業終了だという旨を伝える。
 今日もしあわせ食堂は大繁盛だ。

 厨房が落ち着いてきたアリアは、食事の終わったお客さんに感想を聞いてみることにした。
「こんにちは、料理はどうでしたか?」
「おお、美味かったぞ! 俺はこんな飯、生まれて初めて食ったよ」
「俺も俺も! 絶対にまた来るぞ」
 声をかけたのは、二十代半ばくらいの男性ふたり。仕事着なので、お昼休憩でしあわせ食堂へ来てくれたのだということがわかる。
 とても満足してくれていることはその表情からもわかるので、アリアは嬉しそうに微笑む。
 男性二人は、カレーについての話を続ける。
「それにさ、あったかいから寒くなるこの時期には嬉しいな」
「ジェーロの冬は冷えるからなぁ」
 寒くなると、炒め物の定食よりもカレーのように保温性が高いものがいいのだと男性たちは告げる。外で作業をしていることもあって、体を温めることができる料理はありがたいらしい。
(この世界は空調設備が整ってないもんね……)
 夏は暑く、冬は寒い。
 建物の通気性を工夫したりはするが、それだけでは快適には程遠い。
 金持ちの貴族や王族になれば、空調を調節するために魔道具を設置したりもするが庶民には無理だ。
「冬はスープを食うことが多くなるしな」
「あれがないと、寒くて凍えちまうよなぁ」
 男性の会話を聞き、もう少し寒くなったら冬用に新メニューか何かを作った方がよさそうだ。日本でよくある、冬季限定にしてもいいだろう。
 これはあとでエマさんとカミルにも相談することにして、アリアは男性ふたりに礼を言う。
「ぜひ、またいらしてくださいね」
「ああ! 必ず来るよ」
「俺なんて明日も来るぞ」
「お前、勝手に抜け駆けするなよ」
 賑やかなふたりに、アリアは「お待ちしていますね」と返す。
「よーし、明日だ」
「俺だって明日だ」
 立ちあがった男性たちの会計をして、アリアはドアを開けて見送る。
「しあわせ食堂は逃げないから大丈夫ですよ。ありがとうございました」
 ああやって、自分の料理を求めてくれるのはとても嬉しい。もっと頑張って、美味しい料理を届けなければとやる気に満ち溢れる。
 アリアは、こうやってお客さんの声を聞きながら新メニューを考えるのもいいかもしれないと思うのだった。
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