水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「食べ終わったか?」
「はい。ごちそうさまでした。おいしかったです」
「じゃあ、風呂入ってこい」
「えっ、でも。これの片付けと皿洗い……」
「いい。俺がやっておく。お前が出掛けられそうなら、後で一緒に服と靴を買いに行くぞ」
「あ……はい。ありがとうございます」

 波音がきょとんとしている隙に、碧が手早く食器を下げていく。そのまま流し台で洗い物を始めてしまったので、波音は素直にシャワーを借りることにした。

(や、やっぱり、優しくなってる?)

 償いはしないと断言したのに、やはり気にしているのだろうか。台所横の脱衣所へと入った波音は、そこで想定外の光景を目の当たりにする。

「わ……」

 大きめのタオルと、淡い青色のシャツが、きちんと畳まれて置かれていた。波音の為に碧が準備してくれたに違いない。

 シャツを広げてみると、男性用の大きさで、波音が着ればワンピースとして誤魔化せそうだ。

(こんな至れり尽くせり……ずるい)

 波音は、皺ができない程度の力でシャツを抱きしめ、先程から鳴り止まない鼓動を落ち着けようとする。

 それなのに、清潔感のある爽やかな洗剤の香りが碧のものと同じで、それは加速するばかりだった。
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