Project Novel

「…へたくそ」

ずっと鼻をすすって呟いた。

「お前のために歌ってやったのに」

膨れっ面をするあいつの背には、沈みかけた夕日。

潮風に晒されて乾いた顔に、あたしはゆっくりと笑顔を浮かべた。


「帰ろっか」





……………

涙の味がしょっぱいのは、ずっと海のせいだと思ってた。

でもそれは幼い頃の話で、大人になり、それは常識的にあり得ないことだって自然と知っていった。


いつからか、お母さんに怒られても泣かなくなったし、テストの成績が悪くても、友達と喧嘩しても、涙を流すことは少なくなった。

泣くことが少なくなった訳じゃない。

泣く理由が、変わっただけだ。

大人になるってこういうことなのかな。



…打ち寄せる波は何一つ変わっていない。

あたしの涙を受け入れてくれるかの様に、優しく、しょっぱい海の水を寄越す。


「せめて…あたしの知らない子にしてよね」


< 14 / 33 >

この作品をシェア

pagetop