クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「ああ、どうしてこんなに好きになってしまったんだろう。一目惚れだったはずなのに、毎日過ごすごとにあなたのいろんな表情に惹きつけられる。夢中にさせられる」
「千石くん……」
「あなたがほしいって気持ちを、あなたは信じてくれないんでしょうね」

外は大雨、真っ暗なオフィス。彼と私の視線は絡み合っている。

いけない。非日常は魔法をかける。
このままじゃ駄目。

その時だ。どすどすという大きな足音。
弾かれたように振り向いた私たちの目に、ドアの向こうの懐中電灯の灯りが見えた。
そしてオフィスのドアが勢いよく開いた。

「阿木さん!」

そこにいたのはショッキングピンクのレインウェアに全身を包んだ横手さんだった。
手と額に懐中電灯、作業用とおぼしき頑丈そうな上下セットのレインウェアを着て、足元はホームセンターで売っていそうな長靴だ。

「横手さん」
「愛梨」

私と千石くんの声がかぶった。ふたりともかなりのポカン顔をしていると思う。

「こうちゃんも一緒だったのね。阿木さんが外出だって聞いてたから無事に帰れたか気になって。守衛室に電話してみたら、総務の人がふたり帰れなくなってるって言うから。絶対阿木さんだと思ったんです」
「もしかして助けにきてくれたの?」
「はい!家は徒歩圏内ですから!ここにいたら凍えてしまいます。我が家に避難しましょう。ガスは使えるのであたたかなお風呂には浸かれます」

横手さんは言うと、背中のリュックからふたり分のレインウエアを取り出した。
いつ止むかわからない雨に、電車の運休、危険を冒してわざわざ救助にきてくれた横手さん……申し出を断る理由がないわ。

「横手さん、ありがとう」
「愛梨……ありがとう」

私の横で、千石くんがなんとも言えない表情をしていた。
私は……結構助かったよ、横手さん。




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