クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「社長のご意向も強いからね」

私の口に出さない疑問に答えるように野口課長が言う。それは少しだけひそめた声で、隣の島で総務一課の課長と話している千石くんに聞かせないように配慮しているんだと思う。

「社長は今回の仕切りを孝太郎くんに経験させたいんだと思うよ。この分野は社長が販路をひらいたわけだし、ラ・マレのCEOとは個人的にも懇意だしね」
「はあ」
「それに、ゆくゆくはラ・マレの客船運行を新部門を独立させて子会社にして、そこの社長に……とか考えてるんじゃないかなぁ」

なるほどなるほど、だから息子にセッティングさせ、かかわりを持たせたいんだ。
でも、千石くんの仕事イコール総務二課の仕事になり、私の仕事になるんだけど……。

うう、愚痴っても仕方ない。多少の無茶ぶりを聞いてあげるのも、将来の社長の経験のためだ。そして、恩を売っておくに越したことはない。
プラス思考、プラス思考。ここは頑張りどころでしょう。

デスクに向かうと千石くんも戻ってきたところだった。

「第三営業部と今日中に打ち合わせしたいの。担当の八木さんに連絡入れてくれる?」
「ラ・マレの件ですが?」

すでに知っている様子だ。社長から直接お話があったのかしら?でも今は一人暮らしをしてるみたいだから、毎日コミュニケーションとってるわけじゃないよね。どこから知ったんだろう。まあいい、それなら話は早い。

「そう。打ち合わせの件、よろしくね」

さらりとそれ以上の無駄話はシャットして、私は自分の仕事に戻った。
歓迎会の夜以降、彼とはなるべく距離を置き、深い会話はしないようにしている。

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