クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「昨日のこと、俺は後悔していません。あなたに変な男が近づくのは我慢ならない」

千石くんは言葉を切り、きりりと眉を張った。それから勢いよく頭を下げたのだ。

「ですが、あなたを不快にさせたことは申し訳なく思います。恋人気取りの態度、嫌に感じられて当然です」

さすがに息を飲んで、私は押し黙った。
驚いた。まさか、謝ってくるとは思わなかった。

「千石くん、頭をあげて」

私は小声で言った。千石くんの謝罪が目立つので、誰も通りかからないとはいえ、早く切り上げたかった。

「勤務時間中に、プライベートな話をするのは嫌いだって言ってるわ。昨日のことは、千石くんなりに気を遣ってくれたのだとわかっています。ありがとう。でも、私も子どもじゃないから過保護な態度はやめて」
「過保護になりたいんです」

千石くんが顔をあげた。どきりとする。透明度の高い真摯な瞳が私を捉えた。その奥にきらりと光る野蛮な閃光。
ああ、本当に魅力的な人。それだけは認める。

「あなたを守りたい。あなたに信頼されたい。あなたに隣にいていいって許しをもらいたい」
「千石くん、やめて」

私は顔をそむけ、短く言った。

「時間はかけるつもりでいますよ」

千石くんは宣言して、私の横に並んだ。その表情はいつもの彼のものだった。

「さて、仕事に戻りましょう」

コンベンションまであと10日という日のことだった。

はあ、忙しいのに千石くんのせいで頭パンパンだわ。




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