凶愛
回帰の談







椅子の足を伝いポタ、ポタと落ちていく紅い赤い血と、そうして出来た血溜まりを見て、背を丸めて座り込んだまま、何度も瞼を開いては閉じる事を繰り返していた人影は、ゆっくりと立ち上がった。

「そろそろ帰らないと。」

自分の為に身を捧げたこの世界の住人たちの犠牲を無碍にしない為にも。

帰りたくなくとも、帰りたくとも、どちらでも良かった。




ただ、彼との約束があったから。

部屋の中に浮かぶ、薄っすらと燐光を纏う白いドアへと手を伸ばした彼女がそれに触れた途端、じわじわと髪の毛が白からダークブラウンへ、そして、瞳が青から赤へと転じていった。

それまでに何の光も通さないように見えた瞳が、宝石の如く煌めきを灯したかと思うと、次の瞬間には、少女の姿は消えていた。
部屋の窓の外には白い灰が舞っていた。

まるで雪のようなそれが、世界を埋め尽くそうとも、とっくの当に誰も息をしなくなった過去から今現在、そして、未来に至るまで何も不都合な事はなかった。


ここは、裏世界と呼ばれる場所。

命亡くして生命が生まれる場所でありながら、誰も居なくなった後の世界へと化してしまった、終わった世界。

この世界を終わらせた一人の少女が、元の世界へと帰って行った事は、本当に正しかったのか。
それは、依然として、尽きぬ疑問として残されたままだ。

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