凶愛

何やら急いでいる様子で、颯爽と去って行った少女。

それを見送った桜目という人物は、自然と伸びた手が携帯端末を掴んでいた事に気が付いた。

あの少女の兄に、側近として侍ってきた双子の兄を持つ桜目 蒼汰。

彼は、今まで、周りがそうであったように、自身も目を背けてきた異質なあの存在に対して、恐怖すら感じていた。


それは単に、彼女が生まれた一族とは全く違う容姿を以て産まれてきたから、という理由だけではない。

実際にはそれを主な理由としている者達も居るが、実は、少数派だった。
寧ろ、あの者達のような命知らず等、仲間とも思いたくないと考えている者こそ居れど、彼女を邪険にする考えを持たない、……否、そんなものすら持てる術もないのが自分たちなのだ。



あの少女ーー呪われ子とも言われる所以であるのだが、ーーに、一族の仇敵ともされている黒大蛇と(くれない)狐とが憑けた印があった。

そして、大多数は、その印の気配に気圧されて近付けないか。
或いは、食われる直前の小動物の心地を味わい、忽ちにして強者から逃げ出す弱者たる生存戦略を叩き出しているだけだった。

あれを虐げようとして馬鹿を見る者は、今や、一人残らず、その鈍感さと無知による非情な結果を通して居なくなってしまった。
それでも、その中でも、まだ知恵のある者たちは、あの呪われ子の恐ろしさを感じられずとも、前例や噂の気味の悪さから彼女を遠巻きにしていた。

ちなみに、この桜目も、過去にはその一人ではあったのだが。
ある日を境にして変格を起こした以降は、正確に、未知の存在への恐怖を目の当たりにした。
そうして、こそこそと逃げ回るようになったのだった。


親族によって、立ち位置的にそれも難しくなったものの、ついさっきまでは平穏を甘受していたと言うのに。逆戻りである。


……いや、もしかしたら、もっと酷いことになるかもしれない。

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