大好きな先輩は隠れ御曹司でした
『海外営業部の人間とはなかなか会えないから、会えた時は全ての用事を済ませる』という会社の人間なら誰しもが知る格言を思い出して、光希は苦く笑った。

いつも社内の自分のデスクにいる自分達が都合を合わせるのが一番効率が良いのだから仕方ないのだが、相手の都合に振り回されている感も拭えないので微妙な表情になってしまったのだ。

「岡澤主任は若手のホープだからね。色々頼られるし、忙しいのも仕方ないさ」

光希の心情を慮った若松課長が取りなすような言葉をかけてくるけれど、どうしても引っかかりを感じてしまう。

「僕が届けてもいいんだけど、そうすると岡澤君に気を使わせてしまうからね。冴島さん、お願いするよ」

「はい。でも、岡澤主任も少しは気を使ってもバチは当たらないと思いますよ?大先輩の若松課長に急な残業させたんですから。課長、昨夜、遅かったんですよね?」

「あぁ、バレてたのか。でも大丈夫だよ。僕は普段、毎日定時退社だからね」

そう言って穏やかに笑みを浮かべると、課長はこの話は終わりとばかりに別の書類を手に取り、それを合図に光希も席に戻る。
< 2 / 148 >

この作品をシェア

pagetop