妄想の恋が実現した結果。
決断
じゃあね、とつぶやき病室から逃げるようにでていった。
「鏑木。これから実家に戻るわ、連絡お願い。」
「かしこまりました。こちらから調査しておきましょうか。」
「……どちらでもいいわ。好きにして。
ただし、報告はしないでちょうだい。」
「かしこまりました。ではまいりましょう。」
家に帰るとお父様が心配するように出迎えてくれた。
「香織…大丈夫か?無理することはないからな。」
多分鏑木は二度と屋敷に戻らないことを予想したのだろう。
「お父様…ごめんなさい…せっかくいい縁談だったのに…」
「いや、香織が気にすることはないよ。
もともと親同士のノリだったんだから。」
「そうですか…ここ2,3日大学を休むとお伝えください
では失礼します。」
「お嬢様、しばらくは夏休みです」
そう、と言い残し出て行った。
声を押し殺して泣いた。ここ最近食欲がでない。
部屋に引きこもって1週間。
毎日お父様がドアの前で思い出話をしてくれる。
鏑木はいつものようにドアの前で私の部屋を守ってくれている。
「ねえ、鏑木。そこにいるんでしょ?入ってきてくれない?」
一人で寂しくなった。
「なんでしょうか?」
「ねえ、私、寂しくなっちゃった。
もともと私この婚約に乗り気じゃなかったでしょ?
だから愛想をつかしちゃったんだわ。いや、もしかしたら
もとからあの女性と交際してたんじゃないかしら。そうよね、じゃないときっと、」
「お嬢様、おやめくださいませ。そんなお嬢様、見たくございません。」
「私はいつもこんな感じよ?
それにあなたには話したことがあるでしょう?妄想の話。
結局は妄想に出てきた彼が綾斗と似てたから好きになっただけで」
「お嬢様!お嬢様らしくありません!」
「ねえ、鏑木。私らしいってなに?私はなんなの?」
「私の大切なお嬢様です!」
「嘘ばっかり。結局私はお荷物でしかないのよ!」
「そんなことありません!」
「結局はそうなのよ!でていって!早くでていって!」
ごめんね、鏑木。鏑木は悪くないんだよ?
ありがとう、こんなダメダメな私についてきてくれて。
なんだかまた涙が出ちゃった。
「香織。今日は父さんと母さんの出会いについて話そうか。
僕達も親が決めた政略結婚だったんだ。香織のように母さんも言ったよ。
私なんかでいいのかって。そりゃ最初はお互いに嫌だったんだ。
でも日に日に母さんの優しさにおぼれていったんだ。
僕は振られる覚悟でプロポーズしたんだよ。そしたらokといわれた。
最初は嘘じゃないかって何回も尋ねたよ。でも答えは私もあなたが好きだもの、だった。
すると母さんが歌いだしたんだ。
『好きって言われた瞬間に 私も好きだって自覚した
あなたの優しさが好きだから 同じことを思ってた
ずっと僕のそばにいてほしい そういわれた瞬間 こちらこそ
あなたのことが好きだから 私はそばにいたいんだ』
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