冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 不埒な行いをしようとしたテレンスにも何らかの断罪があったのかもしれないが、ウォルフレッドが物騒なことを言っていたのをフィラーナは思い出し、レドリーにも聞かないことにした。


* 

 ウォルフレッドの言った通り、午前中に残りの候補者たちにも帰郷命令が出た。荷造りや帰り支度の整った者から離宮をあとにし、先刻、ルイーズと別れの挨拶を交わしたところだ。

 窓辺の椅子に腰かけ、部屋から見える王都の光景を目に焼き付ける。部屋にいながらも何となく静寂を感じるのは、フィラーナが最後のひとりであることを物語っていた。

「ご用意が整いました」

 女官長の言葉でフィラーナは立ち上がり、名残惜しそうに部屋全体を眺めてから廊下に出る。メリッサにも挨拶したかったのだが、もう馬車のところで待機しているのか、ここに姿はなかった。

 女官長のあとに続いて、離宮を出て回廊を通り、城本館へ渡る。気づけば自分の後ろには侍女が三人ほど付き従っていて、これまでそんな待遇ではなかったフィラーナは違和感を覚えた。

 そして、そのまま出口へと向かうと思いきや、あろうことか女官長は上に続く幅の広い大理石の階段を昇り始めた。

「あの、こちらで合ってるのかしら……?」

「はい」

 女官長はひとことだけ答えると、それ以上の質問を受け付けない厳格な雰囲気を醸し出しながら先を進む。首をひねりつつも、しばらくついていくと、やがて南棟の三階の一室へと案内された。

 扉が開かれた先には、離宮よりも大きく明るい部屋が広がっていた。ソファセットもシャンデリアもこれまでより煌びやかなデザインで、思わず圧倒されてしまう。意味が分からず立ち尽くしてしまったが、壁際に控えていた四人の侍女のひとりがメリッサであることに気がついたフィラーナは、急いで彼女のもとへ駆け寄った。

「メリッサ、こんな所にいたの? 一体これはどういうーー」

「またフィラーナ様のお世話が出来て、大変嬉しゅうございます。さあ、お召し替えを」

「いえ、聞きたいのはそういうことじゃなくて……」
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