冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(この娘が仲良くできないと思うくらいだから、相手の男にはよほど問題があるのだな……)
 
 ウォルはライラの口調と態度からそう感じたが、詮索しようとは思わなかった。それよりも、自分たちも早くここを去らなければ、騒ぎを聞いた近隣住民の通報でいつ警備隊が到着するかわからない。それはライラたちにとっても望む展開ではないはずだ。

「立てるか。ここを離れるぞ」

 その時だった。

「ウォル様!」

 離れていたユアンから発せられた叫び声に瞬時に反応して、ウォルは振り返った。倒されたはずの男が鼻から血を出しながらも執念でウォルの背後に一気に迫り、拾ったナイフを振りかざそうとしている。

 低い体勢では、すぐさま反撃に転じにくい。男も今が好機と踏んだのだろう。

(しまった、油断した……!)

 その時、腰に帯びていた鞘から剣を抜き取られる振動がウォルに伝わった。

(何だ……!?)

「ウォル、動かないで!」

 ライラの叫び声と同時に、剣先がヒュンッと微かな風音を立てて、ウォルの顔すれすれを横切る。それは、男の鼻に触れる寸前のところでピタリと止まった。

「うっ……!」

 急に目の前に飛び出てきたの鋭利な切っ先に、男はギクリとしたように顔をひきつらせると、動作を止めた。相手に隙が出来たその瞬間、ウォルは素早く立ち上がると、男の腹に強烈な蹴りを食らわせた。声を上げる間もなく、男の身体は吹っ飛び、背中から地面にのけぞる。間髪入れずにユアンが駆けてきて、男をねじ伏せた。
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