冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナが恐る恐る視線を下に向けると、自分の脇腹部分のドレスが放射状に真っ赤に染まっていくのが見える。同時に熱い痛みを感じながらドサリと床に倒れ込むと、ルイーズの手から血に染まった短剣が滑り落ちた。

「ああ、ああ……」

 ルイーズも身体を震わせその場にしゃがみ込む。

 物音を聞きつけ部屋に飛び込んできたウォルフレッドは、信じられない光景を目にした。

「フィラーナ!!」

 駆け寄ると慌ててフィラーナの身体を抱き起こし、傷口を手で塞ぐ。

「しっかりしろ、フィラーナ! ユアン、早く医者を呼べ!」

 ユアンと数人の騎士が急いで廊下を駆け出していく。必死の形相で自分を抱き寄せるウォルフレッドに、フィラーナは力なく微笑むと、今度はルイーズに向かって小刻みに震える腕を伸ばし、彼女の手にそっと自分のそれを重ねた。

……例え偽善者と言われても、私はあなたが好きよ、ルイーズ……
 
 そんな思いが通じたのか、ルイーズはフィラーナの手を握り返すと、すがりつくようにして声を上げて泣いた。




 自分の名を呼び続ける声と、誰かの嗚咽を遠くに聞きながら、フィラーナはゆっくりと意識を手放した。



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