witch
「待ち伏せしたかいがあったわ。こいつの言うことを聞いてよかった。まぁ、聞くっていってもこいつ話せないから文字に書いてもらったんだけどね」
こまりが塊の太くて真っ黒な腕を軽く叩く。
人間がよくやったと言って肩を叩くような感覚で。

「あなたは誰?」
ももかちゃんが警戒心を露にした声で尋ねる。
目付きはやや睨むようになっていた。

「あら、覚えてないの?あなたと同じクラスなのに」
「もしかして、中田さん?ずっと欠席してる」
「あーたり!良くできましたー!」
「バカにしたような話し方すんな!」
ももかちゃんは今にも殴りかかりそうなくらいだ。
はっきりと伝わる、怒りが。

「こまり、諦めてくれたんじゃないの?」
私は昨日のことを思い出す。
昨日の、僅かに見せた、彼女の優しさを。

「うん、一度は諦めたよ?でも、またほしくなっちゃった」
こまりは楽しそうに言って見せる。
その態度か腹立たしい。

「んじゃ、お前。こいつらを殺しておしまい!」
こまりは塊に命令した。
しかし、塊は私たちの方を向かずにこまりの方を向いた。

「ちょっと、お前。ターゲットはあっちよ!」
こまりが私たちを指差す。
しかし、塊は私たちではなく、その強靭な腕でこまりを突き飛ばした。

「きゃぁ!」
こまりの体は宙にまい、壁に勢いよく背中をぶつけた。

「こまり!」
私は無意識にこまりの方へと走り出していた。
心臓がばくばくと音を立てる。
これはまずい。勘がそう叫んでいた。

こまりが背中を押さえてうずくまる。
その姿に明らかに異常を感じた。

「何で!?何でこまりを攻撃したの??」
塊は普段からこまりの言うことを聞いていた。
何でも聞いていた。なのに、どうして突然?


私は苦しむこまりを介抱する。
「大丈夫!?」
「私は大丈夫。それより、あいつが…」
こまりは私の後ろを指差す。
私はおそるおそる後ろを振り返る。

そこでは、塊が私とこまりの方を向いて、大きく息を吸い込んでいた。
「おかしい!何かがおかしい!何で突然私の命令に従わなくなんの!?」
「分かんない!分かんないよ!」
私は精一杯叫ぶ。

「お前!やめなさい!言うことを聞きなさい!」
こまりが精一杯叫んだが、塊には聞こえていないようだった。

塊は大きく口を開けると、大量の火炎を吐き出してきた。

「いやぁぁ!!!」
私はこまりを強く抱きしめ、目を固くつむった。
嫌だ。死にたくない!
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