困難な初恋
2.チャンス
そこから1ヶ月が経とうとしていた。廊下、食堂、フロア、会議室。出会うたびに不自然で無い程度にアプローチしてはいるものの、全くと言っていいほど効果は無い。

成瀬とのゲームの期限は3ヶ月。もう3分の1が終わってしまう。
全く何の親展も無いままに、は避けたい。

営業先から戻り廊下を歩きながらそんなことを考えていた。その時、

「宮川さん、ほんっとそういう態度、腹立つ」

「てか、私が成瀬さんのアシスタントなのに、何勝手に成瀬さんの資料作ってんの」

給湯室内で、2対1、廊下にいる自分からは言えないが、明らかにこれは・・・

「確認せず、申し訳ありませんでした。」

「いや、謝ったらいいっていうその態度も腹立つんだけど」

実は、成瀬からは事前に聞いていた。
今宮川秋葉に突っかかっているのは澤田麗華。身なりは華やかで綺麗なのだが、仕事に対する姿勢は中の下。
予定があればさっさと帰るし、納期管理も甘い。
ぼやく成瀬は、「だから俺、こっそり宮川さんに手伝ってもらってんだよね。」と言っていた。

だからこういうことになるんだけどな。
はぁ、とため息をこぼし、歩を進めた。

「お疲れ様。ちょっと、冷蔵庫あけてもいい?」

「!!松原さん!す、すみません!どうぞ」

澤田麗華は慌てて身体をどかす。秋葉はうつむき加減の無表情、もう1人と澤田は、慌てた様子で給湯室を出ていってしまった。

「大丈夫?」

7割心からの心配で声をかける。目が合わないまま、秋葉も返事をした。

「大丈夫です。」

「成瀬に・・・言っとこうか?」

「大丈夫です。」

ふーっと息を吐く。
「余計なお世話かもしれないけど、いくら成瀬が困っていたとしても、澤田さんに一言も無くだったら、こういう結果になるよ。これからも。」

秋葉の目がふ、と上がり、目があった。

「どうせ前もって成瀬さんが言っても、やらないですから。あの人。だったら、仕事も浮いたまま、みたいな状態になるよりは、終わらせてから文句だけ言われたほうがマシじゃないですか。」

淡々と、でも目は怒りをたたえた状態で、珍しく秋葉が饒舌に話した。

初めての長文!
驚きと、少し嬉しさもあり、一瞬黙り込んでしまったのを見て、秋葉が付け加える。

「すみません、入ってきて頂いたのに。申し訳ありませんでした。」

素直。でも、結構自分の信念的なもの、あるんだ。

周りとの関係を気にしながら過ごしている自分には無いものを持っているような気がして、ただ、上手くいかない不器用さも抱えているこの子に、この瞬間、急激に興味を持った。
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