フィアンセは恋わずらい中
「ごきげんよう、松岡さん。今日もお邪魔するわね」
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
今日も着物を凛と着こなした八神夫人がやってきた。午前中なのでクロワッサンの残りにもまだ余裕がある。
だけど、いつもは1人で来るのに、今日は着物姿の美男子を伴っている。
(息子さんかな?)
初対面の男性に会釈をすると、長身で端正な顔立ちから微笑みが返され、思わずドキッとしてしまった。
「はじめまして。立花と申します。こちらのご評判は、八神さんから常々お聞きしております」
「はじめまして。mon angeの松岡です」
(息子さんじゃないとなると、お茶会のお仲間かな? 和装だし。そうじゃないとなると……)
身長の割に顔が小さく、モデルのような雰囲気もある。
紗夜は、八神が茶会を開いていること以外、人となりを知らないので、立花との関係はいくらでも想像できた。