凛々しく、可憐な許婚

両家の思惑

「先生さよなら。また来週ね」

「鈴木先生、職員室で俺達の咲夜姫を、襲うなよ」

部室を出る弓道部員の挨拶を受けながら、最後の一人が部室を出るのを確認すると鍵を閉め、尊と咲夜は職員室に向かった。

袴は生徒たちと一緒に部室で着替えた。

「男子の部室、相変わらず汚かったよ」

尊が苦笑すると

「私が時々見に行って片付けてたんですけどね」

と、咲夜が苦笑した。

「男子生徒が襲ってきたらどうするつもりだったんだ。これからは俺が管理するから、咲夜さんは男子の部室には近寄らないこと」

真面目な顔で、尊が咲夜に説教を始めた。

「私を襲うような、そんな生徒いませんよ。護身術も少しはたしなんでいますし」

「健全な男子なら何も考えない方がおかしい」

"また、朝の鈴木先輩に戻りそう"

口数が増し、何となく距離が近い尊を警戒して

「じゃあ、これからはそうします」

と告げると、咲夜は職員室へ向かう足を早めた。

「ちょっと,,,待って」

「いえ、今日はこれでお先に失礼します。また、月曜日に」

そう、今日は金曜日。

このまま逃げ切れば、2日間は尊に振り回されなくて済む。

このまま、壮大なエイプリルフールに付き合う義理はない。

一人頷いて、駆け出そうとした咲夜の腕を、呆気なく尊がつかんだ。

「どこ行くの?これから両家で会食だって、学園長が言ってたの忘れた?」

「じょ、冗談じゃなかったんですか?」

「本気も本気だよ」

掴む手に力を入れてくる尊の表情は本気と書いて"マジ"だ。

「絶対に来てもらう」

職員室まで引きずられて行き、ロッカーから出したバッグを持たされた咲夜が、否応なしに尊の車に押し込まれて連れ去られたのは、かれこれ、部室を出てから20分後のことだった。
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