凛々しく、可憐な許婚
「君がこのはな学園に勤務するようになってからは、雅臣や学園長の目があったから比較的安心だった。プライベートに関しては、このマンションの監視はもちろん、完全オフの休日については、君も仲のいい雅臣の彼女である唯李さんから情報をもらっていたんだ」

昼間に雅臣と尊が言っていた言葉の意味がわかった。

『肩の荷がおりた』

『お前の役割はこれで終わり』

『さんざん利用しておいて,,,』

あれは、このことだったんだ、と咲夜はやっと納得がいった。

"唯李ちゃんまで味方につけるなんて、なんて見境がないのだろう"

咲夜は、知らないうちに尊が仕掛けていたトラップに感心しながらも、やはり少し呆れていた。

「このマンションが職員寮っていうのは本当は嘘なんですね」

「まあ、そうだね」

"やっぱり,,,"

どおりで他の職員に会わないはずだと、咲夜は納得がいった。

「俺は3年前からここに住んでいたよ。君と一緒にエレベーターに乗ったことだって何度もある」

「本当ですか?」

尊は、テレビ台の引き出しから1枚の写真を取り出すと、咲夜に差し出して見せた。

そこには驚くほど覇気のない眼鏡男子が写っていた。ダサめの帽子をかぶり、昭和のオタクが着ていたようなチェックシャツを着ている。

「これ、まさか尊くんですか?」

「そうだよ」

確かにこの人物には身覚えがある。何度かエレベーターで一緒になったこともあり、ちょっと風変わりだけどこのマンションの住民だろうと思っていた。

「君に会いたくなったら、この格好をしてエレベーターに乗ったり、学園祭や弓道大会、カルタ大会にも行ったな」

写真の人物も、エレベーターに居合わせた人物も、普段の尊からは考えられないくらいオーラが消えていた。

「俳優か探偵になれますよ、尊くん」

咲夜が呟くと、尊が口元を押さえて笑った。

「誉めてもらえるなんて光栄だな」

ストーカーとも捉えられかねない行動ではあったが、そうまでして咲夜のことを気にかけてくれていたことが、今の咲夜には嬉しく感じられた。
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