凛々しく、可憐な許婚

新たな刺客

「光浦先生、この古典の授業計画はどうします?」

「鈴木先生、ここの部分がわからないんですけど」

咲夜の左隣の席は、今年新規採用になった教師歴5年の吉高誠治(27)だ。2年5組国立文系進学クラスの担任。

吉高は、公立高校で国語の教師をしていたが、教育方針が合わないと、私立高校であるこのはな学園高等学校に再就職してきた中堅だ。

尊の右隣は新卒の生物教師:井上由利香(22)。井上は、巨乳の小悪魔系。大学を卒業したばかりの若々しさが売り。1年3組の担任だ。

井上は、配属されたその日から色気で尊を悩殺しようとしているのが見え見えだったが、尊に軽くあしらわれてもへこたれない図々しさがある。

咲夜は吉高に、尊は井上に、始終話しかけられるため、咲夜と尊が話す隙は与えられなかった。

咲夜にとっては、尊と少し距離をおきたいと思っていたため好都合だったが、吉高が、話の間に

「光浦先生、今夜はお暇ですか?」

「二人で飲みに行きましょうよ」

とプライベートな誘いを入れてくるので気が抜けない。

「ごめんなさい、今夜は用事が,,,」

「お酒は苦手なので」

とやんわりと断りをいれるのも一苦労だ。

尊と咲夜の婚約の事実は、教師達にも秘密にしている。

生徒や父兄に気を遣わせてしまう可能性が高いため、結婚後も来年度までは隠し通す予定だ。

尊は、あからさまに自分に言い寄る井上にも、咲夜に誘いをかけている吉高にも内心イライラしていた。

そして、尊に背を向けて、吉高と顔を寄せあって打ち合わせをする咲夜にも。

吉高は、全国展開している有名な学習塾を経営する社長の息子、いわゆる御曹司だと、尊は父である学園長に聞いていた。

いずれは学習塾を継ぐ吉高を、あらゆる教育の現場で働かせておきたいとの塾社長からの頼みもあって、学園長が吉高を受け入れた内情も知っている。

そして、老舗旅館を経営する祖父とホテルを経営する父をもつ"お嬢様"の咲夜をロックオンしていることも。

1度は縮まったように思えた距離も、見えない何かに阻まれて視界が見えなくなっているようで、浮かない表情の咲夜の作り笑いに不安を覚える尊であった。

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