凛々しく、可憐な許婚

新任者とエイプリルフール

「許婚,,,って婚約者のことですか?」

"初耳な上に、相手が鈴木先輩なんて、なんの冗談!"

咲夜は、高校時代、誰にも尊への淡い恋心を話したことはない。

もちろん、両親にも、だ。

「そう、フィアンセとも言うね」

尊の表情には動揺は見られない。まさか、尊は高校時代からこのことを知っていたというのか?

「す、鈴木先生は、前から私という婚約者の存在をご存知だったんですか?」

「先生なんて言わずに、尊って呼んでほしい。なんか学校にいるみたいで他人行儀だし、嫌だ」

"いやいや、学校でしょ?ここ"

相変わらず、心の中で一人突っ込みを繰り返す咲夜も大概だ。

「答えになっていません,,,」

「まあ、まあ、詳しいことは、今夜にでも両家で顔を合わせて話そう」

学園長も曖昧に言葉を濁して逃げた,,,。

「とにかく、これから二人で受け持ちクラスや部活について話し合わなければならないこともあるだろう。私も来客があるから、悪いけど退室してもらえるかな?」

"あ、都合が悪くなって追い出そうとしてる"

この3年間で咲夜は学園長のことが何となくわかってきた。

咲夜は、この学園長と咲夜の父親が同郷の幼馴染で、10年前の再会から付き合いが親密化したと聞いていた。

咲夜が大学3年の時、就職先を検討し始めた矢先に、このはな学園を薦めてきたのは咲夜の父親だった。

『弓道部もあるし、全国大会優勝を目指して力のある顧問を探しているそうだ。咲夜は弓道5段錬士だし、教士にも推薦されているくらいだからきっと学園の役に立つだろう』

その時の咲夜は、

"求められる職場ならありがたい、何しろ憧れてた鈴木先輩の母校だし。それに、先輩はそこの弓道部のOBだから、もしかしたら将来OB会とかあって、私も現顧問として参加したら"偶然に再会する"なんてラッキーがあるかも?"

と、邪念を抱いたこともあり、簡単に承諾した。

"OB会どころか、婚約のための再会なんて聞いてない"

内心、頭を抱える咲夜を無視して、

尊はその隙に咲夜の肩を抱きよせ

「それでは、僕たちはこれで。学園長、後程」

と言って学園長室を退室した。

「さて、咲夜姫。ようやく時が満ちました」

尊は、抱いていた肩から腕を離すと、今度は咲夜の右手を自身の左手で握り直した。

「これからは片時も目を離さないから、お覚悟を」

そんな、用心棒のような言葉を発して

尊は職員室の扉を開くまで、混乱する咲夜の手を繋いで歩き続けたのだった。
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