凛々しく、可憐な許婚
「落ち着いた?」

部屋の冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをソファに座っている咲夜に手渡すと、隣に尊も座った。

「それで?何て言われたの?このところ俺と距離をとってたのもあいつが原因?」

咲夜は涙をポロポロとこぼしながら首を振る。酔うと泣き上戸になるのは本当のようだ。

"マジなんだこれ、可愛い過ぎる"

もしかして自分はSなのかもしれないと疑ってしまうほど泣いている咲夜に萌えている尊がいた。

胸の中に抱き寄せると、ぎゅっと背中に腕を回してきた。

「尊くんが,,,」

「俺が?」

「政略結婚,,,だって,,,」

「何のことだ?」

「学園にお祖父様が資金援助,,,してるから,,,婚約を,,,断れなかったんだろうって」

"何を言ってくれてるんだ、あいつは"

事実無根の情報に振り回されてる咲夜は、やはりコミュニケーション能力が足りないのだろう。

「そんなわけないだろ。俺はMBAまで取ったんだぞ。人に頼る前に、自分で何とかする。それに学園の資金繰りは順調だし、光浦家から援助なんて受けたことはない」

胸の中の咲夜が、巻き付けた腕に力を込めた。

「,,,人形みたいに,,,可愛い子と会ってた,,,って。いつもより笑ってたから、その人が本命だろうって,,,」

「ブライダルの鍋倉さんだろ?俺の友達も一緒にいたよ。俺より奥の方の席に座ってたから、外からは見えなかったんだと思う」

涙目で見上げてくる咲夜が可愛すぎる。

「本当,,,に?政略結婚,,,じゃない?」

「ああ」

「弥生,,,ちゃんのこと、好き,,,じゃないの?」

「全く、タイプじゃない」

目をそらした咲夜はまだ言いたいことがありそうだ。

「他にも聞きたいことがあるんだろ?」

「弥生ちゃん,,,高校の時から、その,,,尊くんのことが好きだから、私のこと憎んでるはずで,,,」

「申し訳ないって思ってるのか?だから俺を譲ろうって?」

「,,,っ!そんなんじゃないの。譲るとか思ってない」

咲夜は大きく首を振った。

「積極的にアプローチする弥生ちゃんを止める権利は私にはないって思ってたの。だから、二人が仲良くしてても仕方ないって黙ってた」

再び俯いた咲夜は、女の顔をしていた。
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