主任、それは ハンソク です!
13 / 主任、私でもがんばれますか?

「今日は変にかしこまらないで、楽しくいきましょうね」

 その言葉を合図に、祖父母の間に挟まれた席で、私はゆっくり頭を下げた。慣れない着物でうまく動けない自分は、まるで操り人形みたいだ。
 私たち背後では、逃げ場を塞ぐように父と母が座っている。

 豪奢な生け花を配した床の間をバックに座るのは、今日のこの場をセッティングした佐野さんというこの女性。
 「必殺・お見合い人」として有名な人。

「ごめんなさいね。今日はうちのお父さんも同席する予定なんだけど、何してるのかしら、まだ来ないわねぇ」

 そして何より有名なのは、今話題に上った彼女の夫。
 地元出身の国会議員で、与党の幹事長もしている大物議員。祖母の話だと、どうやら、この佐野ご夫妻がそのまま仲人になってくれるらしい。
 だから、そのご挨拶もかねて佐野先生も同席するんだろう。

 ふいに、視線を感じた。

 目の前には、写真よりもさらにくたびれた風の小太りな男性が一人、無表情でこちらをじっと見ている。彼の左右に座る高齢の男女も、同様にこちらを見ていた。私の写真も成人式の時のものだったはず。きっと、お互い様だろう。
「広志君、よかったねぇ。あなた、今日の事、ずっと楽しみにしてたものねぇ」

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