エリート弁護士と婚前同居いたします
やっとの思いで辿り着いた現在の私の自宅。
私ひとりの力では確実に住めない、分不相応な豪奢な自宅。

今ではすっかり慣れてしまったオートロックを解除して、エレベーターに乗り込んだ。部屋に着き、バッグから鍵を取り出し玄関ドアを開ける。
真っ暗で無人の部屋を予想していたのに、室内は煌々と灯りがついていた。今朝、私はきちんと消灯していったはず。

「……朔くん?」
ポツリと呟いて、そのままリビングに向かう。廊下とリビングを隔てるドアの取っ手に手をかけた時、誰かと話している朔くんの声が聞こえた。どうやら電話をしているようだ。

「……ああ、まだ茜は帰ってきていない。本当にいつも通りの時間にクリニックを出たのか?」
イラ立ったような朔くんの声に、ほんの少し身体が強張った。電話の相手は誰だろう?

「この間事務所に来た時、日高に色々言われたらしい。まさか! 俺はずっと好きだったんだ。なのに侑哉がこのタイミングで結婚するなんて言うから……!」
彼の言葉に息を呑んだ。呼吸が苦しくなる。
ドッドッドッと耳に激しい鼓動が聞こえてくる。

どういうこと? ずっと好き? 誰を?
日高さんとの会話が脳裏に鮮やかによみがえる。
『彼はあなたのお姉さんが好きなのよ』
グルグル何度もリプレイされる台詞。

私と彼が出会ったのは最近のはず。ずっと、という単語はあてはまらない。
……朔くんはやっぱりお姉ちゃんが好きだったの?
私が妹だから近付いたの?  お姉ちゃんの傍にそこまでして、いたかったの? 私は身代りなの? 私を好きだと言ったのは嘘なの?

取っ手をつかんでいた指が震えて、力が抜け落ちる。
……ここから出なくちゃ。もうここにはいられない。
せりあがる嗚咽を何とか呑み込んで、もつれそうになる足を必死で動かす。

バタン、と玄関ドアが閉まる音が背後から聞こえる。 震える指でエレベーターの呼び出しボタンを連打する。今のドアの音で、立ち聞きしていたことを朔くんに気づかれたかもしれない。うまくボタンを押すことができない自分にイラ立つ。やって来たエレベーターに足早に乗り込み、マンションを飛び出した。

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