エリート弁護士と婚前同居いたします
時間と場所を確認して通話を終える。詩織に会えると思うと気持ちが明るくなった。とにかくこの心の葛藤を彼女にきいてもらいたい。それこそが甘えかもしれないけれど。

 私の予想通りに仕事は順調に終わった。身体は少し疲れていたけれど、足取りは軽い。
 約束した五反田駅前にある私たちのお気に入りの焼鳥屋さんに向かう。
 午後八時半すぎ。約束の時間ぴったりに店の前に到着した。日本瓦に白い壁、古い日本家屋にある蔵をイメージするような外観が目につく。

 私の勤務先の最寄駅とひと駅違うだけで随分雰囲気が変わる。仕事帰りの会社員や学生といった人が店の前の道を多く行きかう。
 冷房のきいた電車から降りて、それほど歩いていないのに、汗が噴き出す。気温は昼間に比べたら多少は下がっているけれど、身体にまとわりつくような湿気はあまり変わらない。

「いらっしゃいませ!」
 いつ来ても変わらない明るい雰囲気のお店。あまり広くはない店内にはL字型のカウンター席が十席ほど、四人がけのテーブル席が五つほどある。店内は満席で賑やかな笑い声があちらことらで響いている。

「茜! こっちこっち!」
 テーブルから身を乗り出すようにして、詩織が大きく手を振ってくれている。色白の肌に明るめのブラウンのショートカット。スモーキーピンクのサッシュベルト付きワンピースがよく似合っている。明るい笑顔はいつもと変わらない。

「詩織! ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん、私もさっき着いたところで今、メニューを見てたところ」
 そう言って彼女は手にしているメニューを私に見せてくれた。彼女の向かい側に座って隣の席に荷物を置く。お互いにメニューを覗きこみながら、好きなものを注文する。
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