エリート弁護士と婚前同居いたします
「ちょっと、それはまずいでしょ! 今もう十一時前よ? もし上尾さんが帰宅して茜がいなかったら心配するんじゃない?」
 詩織が腕時計を覗きこみながら言う。そこまで言われてハタと思い当る。確かにそうだ。私が逆の立場でも心配する。

「ど、どうしよう……」
 慌てて腕時計を確認しながらバッグに手を伸ばす。
「ちょっと連絡しておく」
 詩織に断って、スマートフォンを取り出すとおびただしい着信の数が表示されていた。
「じ、十五件?」
 驚く私の声に詩織が私のスマートフォンを身を乗り出して覗きこむ。 

「遅かったわね。完全に心配されて怒られるパターンね、これ」
 ご愁傷様、と詩織が言う。
「もう、他人事だと思って!」
 言い返しながらも、どうしようと逡巡していると手にしたスマートフォンが震えて再び彼からの着信を知らせた。

「し、詩織、どうしよう! かかってきた!」
 思わず声を上げると、詩織が呆れたように言う。
「出るしかないでしょ。何言ってるの!」
 その声にそうっと画面を押して耳にスマートフォンを近付けた。

「も、もしもし……?」
『茜!!』
 耳に響く大きな声。彼がこれだけ大声を出すことは珍しい。
『お前、いまどこだ!? 何かあったのか!?』
 聞いたことがないくらいに早口で焦った声に、心配をかけてしまったことを痛感する。
「あ、ううん! なんでもないよ、大丈夫。今、詩織と会ってて、ごめんなさい。私、連絡を忘れてしまっていて……」
 慌てて彼に告げる。

『……よかった。そっか』
 ハーッと大きく息を吐く音がスマートフォンごしに聞こえる。彼の声が一気に小さくなった。
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