エリート弁護士と婚前同居いたします
「まあ、とにかく心配かけたのは事実だし、きちんと謝りなさい。恐かったんじゃない、上尾さん」
 面白がっていた表情を消して、詩織が真面目に言う。

「どういうこと?」
「だって帰宅したら同棲相手がいないんだよ。事故にあったのか、自分に嫌気がさして出て行ったのかわからないじゃない。しかも告白はしたけど返事はもらえていない状態だから、自分の何か悪かったのかって考えちゃうだろうし。パニックになるわよ」
 淡々と言いながら彼女が席から立ち上がる。
 そんなこと全然思いつかなかった。至らない自分に嫌気がさす。

「何、落ち込んでるのよ」
 どんな時も頼りになる親友が、座ったままの私を見おろしながら呆れたように言う。
「私、全然ダメだなあと思って。詩織みたいにちゃんとわからなかった。心配かけちゃったのはわかるけど、そんな思いをさせてしまっているなんて、考えが及ばなかった」

 フッと頭上で彼女が笑って言う。
「そう思うならきちんと謝って、彼に茜の本心を伝えてあげなよ。それだけで上尾さんは安心できると思うから」
 親友の言葉に今度こそ私は大きく頷いた。きちんと気持ちを伝えよう。もう逃げずに誤魔化さずに、彼に好きだと言おう。朔くんは私に何度も気持ちを伝えてくれたのだから。
 そう決意し、私はバッグを手にして立ち上がった。
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