叶わぬ恋と分かれども(短編集)
赤面サンタクロウス

【赤面サンタクロウス】




 へっくしゅん、と。情けないくしゃみのユニゾンが響いて、夕礼のため休憩室に来ていた店長が「移さないでね」と苦笑した。くしゃみをした当人たちは「ふぁい……」と情けない返事をしながら、長机に顔を埋めたのだった。
 店長はわたしともうひとり、遅番の村山さんに、静かにマスクを差し出した。

「悪いね、風邪引いたんなら休ませてあげたかったんだけど、人数足りないから」

「いいんですよ、店長。こんなときに風邪引いたふたりが悪いんですから」

 ふたりの代わりにわたしが答える。クリスマスから年末にかけてのこの忙しい時期に揃って風邪をひくなんて。しかも今日はクリスマス。昨日今日とスタッフが何人も希望休を出して、ただでさえ人数が足りていないというのに。

「一真は朝からお疲れ様、純平は九時までもう少し頑張ってくれな。俺もできるだけサポートするから」

 店長はそう言ってふたりを励ましたけれど、この年末、スタッフの相次いだ希望休や体調不良で一番大変だったのは店長だ。どうにかシフトを組むため、恐ろしいくらいの変則連勤をこなしている。

 店長だってクリスマスくらい恋人とゆっくり過ごしたいだろうに。先月末に出たシフト表で、店長の変則連勤を見てすぐ「彼女、怒りませんか?」と聞いてみたら、店長は「彼女も販売やってるから、この時期は俺より忙しいかもね」と優しく笑いながら言った。その優しい笑顔が何よりの惚気だと思った。



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