叶わぬ恋と分かれども(短編集)
叶わぬ恋と分かれども
【叶わぬ恋と分かれども】




 上司からのセクハラやモラハラやパワハラ、度重なる残業、苦手な満員電車での通勤……。そんな生活は四年で限界がきて、会社を辞めた。そして二十七歳にしてアルバイト生活。

 去年隣町にオープンした古本屋で、生まれて初めてのアルバイトだ。
 会社員の頃に比べると収入は減ったけれど、時間にも気持ちにも余裕ができたし、スタッフもみんな良いひとたちばかりで、毎日それなりに楽しく過ごすことができている。

 その最大の要因は、店長の人柄だろうと思う。
 スタッフたちのことをまるで弟や妹――家族みたいに接してくれる。仕事も早いし物知りだし、困ったときは必ず駆けつけてくれるし。頼りになるお兄ちゃんができたみたいだ。
 優しさに飢えていた私にとって、店長との出会いは本当にありがたいことだった。


 地元は県外だけど、赤字店を立て直したり、社長から新店舗の店長に指名されたりする凄いひとらしい。と、荷物を届けに来た他店の店長さんに聞いた。

 そんな素敵なひとを、好きにならないわけがなかった。むしろ好きにならない理由なんてない。好きになるな、というほうが難しいはずだ。


 だから私は、店長に認めてもらいたくて、仕事に励んだ。
 慣れないレジ打ちも、買い取り査定も品出しも。最初はミスばかりだったけれど、数ヶ月が過ぎる頃にはだいぶ慣れ、なんとかこなせるようになった。



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