愛を呷って嘯いて


 サーバーを軽く揺らしてからコーヒーをカップに注ぐと、正面に座った彼が「すごいな」と唐突に切り出した。視線の先にあるのはドリッパーと、ペーパーフィルターに残った抽出後のかす。

「インスタントじゃないなんて」

 そう続ける彼の前にカップを置いて「うーん?」と首を傾げる。

「すごくはないよ。豆から挽いたわけじゃないし」

「いや、俺は毎朝インスタントか缶コーヒーだから。面倒だし」

 ふむ。彼の朝はインスタントコーヒーか缶コーヒーか。また新しい情報を得た。

 彼の「うまい」を聞いてふふと笑って、わたしもコーヒーを一口。うん、おいしい。


「おまえ、二日酔いは?」

「わたしは大丈夫」

「酒強いんだな。ウイスキー飲んでるだけある」

「そ、そんなに飲んでないよ。普段はお父さんと一緒にビールだし……」

「晩酌付き合ってるんだ」

「ナイター観ながらね」

「野球好きなの?」

「スポーツは何でも観るよ」

「何でもって?」

「野球もサッカーも体操も水泳もバレーも。冬はフィギュアスケートやスキーも観るし、日曜日に時間が合えば競馬中継も観てるよ」

「競馬? もしかして馬券買うの?」

「ううん、テレビで観るだけ。馬が格好良くて」

「ただの馬好きか」

「なんだと思ったの?」

「酒飲みながらナイター観たり、競馬に興じるおっさんかと」

「まさか。やめてください……」

「それで?」

「うん?」

「おまえはゆうべのこと、どこまで憶えてるんだ?」

「え?」



< 14 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop