皇帝陛下の花嫁公募
 秘密の通路を使って私室に戻り、変装を解く。アンドレアスは側仕えの手を借りずとも、自分の身の回りのことができたので、元の姿になるのは簡単だった。

 そして、改めて私室を出て、執務室へと向かった。

 机の上には書類が山積みになっている。今日は昼間も夜も仕事をしなかったから、秘書はさぞかし戸惑っていたことだろう。

 アンドレアスは苦笑しながら、机につき、書類に目を通し始めた。

 すでに大臣達が集まる会議で決定された事柄がまとめられた書類だが、皇帝がそれに署名しないと実行されないことになっている。だいたいはそのまま署名するが、読んでみて、やはりこれはよくないと判断するものもある。

 だから、しっかりと熟読することが必要だった。

 書類の中に、花嫁候補の名簿が入っていた。目を通すと、王族や貴族や名だたる名家の娘達ばかりだ。リゼットの言うとおり、こういうところにしか花嫁募集が通達されなかったのだ。

 確かに、着飾った娘ばかりで不思議だったが、皇帝の花嫁になろうという野心を抱くのは、結局こういう娘しかいないのかと思ったのだ。リゼットは美しく、性格がいいだけでなく、頭もいいらしい。

 ますます気に入った!

 リゼットほど自分の花嫁にふさわしい娘はいない。

 本当のところは今すぐ結婚して、寝床に連れ込みたいが、そうはいかない。馬鹿馬鹿しいが、花嫁公募の案を出したのは自分だ。そして、試験で選ぶところを見世物のようにすると決めたのも。
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