不器用な彼女

再会

「何か他の事考えてる?」

詩織の胸に顔を埋めていた社長が顔を上げる。

今日は社長に誘われて泊まりに来ている。

社長のキスや愛撫はいつだって気持ちが良い。それなのに気分の乗らない詩織に対して「体調悪いのか?」「今日はやめとく?」って聞いちゃったり。

本当は熱く甘く抱かれたい。社長に愛されてるって実感したいのに、頭の中には茉由がちらついて行為に夢中になれずにいる。本当に若い子が好きで、詩織との関係は茉由と良い仲になるまでの繋ぎなんだろうか?自分は制欲処理なんだろうか?とまで考えてしまう。

社長は詩織に腕枕をするとそれ以上の愛撫はせずにそっと抱きしめた。

「俺に触れられるの嫌か?」

「嫌じゃないですよ」

「もう気持ちが冷めたとか?」

「…それは社長でしょ」

つい口から出た本音に社長は目を丸くしている。

「何言ってんだ?俺は冷めてなんかない」

「そんなの、嘘だ……」

また可愛くない事を口にしてしまう。

社長の大きな溜息が聞こえた。



社長は明日の朝になったら詩織の機嫌が直ってるとでも思ってるのだろうか。
社長は詩織の機嫌を取ることもせず、いつもみたいに詩織の気持ちを引き出してくれる訳でもなく、でも背中を向ける詩織の体に腕を回し、首筋や背中にキスを落とす。
嬉しいような、嬉しくないような。。。

その日はお互い何もせず、通夜のような静寂の中眠りについた。


翌朝、社長の「お前、生理近いのか?」なんてデリカシーの無い発言にイラッとする。

「違います!」

「またへそ曲がり姫かー?早く機嫌直せよ?」なんて当たり前にキスをしてくる。

「今から現場行かなきゃならなくなった」

「えっ?」

日曜日なのに久々のデートは中止で社長は仕事に行くと言う。
先日の色見本が無かったせいで社長自らお手伝いに向かわねばならないらしい。

ハッキリとは言われてないけど、デートが無くなったのは自業自得だろ?ってな態度だ。

いつものように最寄りの駅で降ろされ、詩織は社長の車を見送る。

胸の中のモヤモヤが晴れぬまま、人もまばらな日曜の朝の電車に揺られた。










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