明治、禁じられた恋の行方
呼んでいたのは園池家の家長、千歳の父親である園池具忠(ともただ)だった。
そばには、どこかの富豪か、若い男性がいる。

「うーわ、あの遊び人に目ぇつけたの、お前の親父。
 お疲れ、せいぜい頑張って。」

そう言う麗斗を睨みつけ、具忠のもとへ向かった。

「やぁやぁ、こちらが娘の千歳でね、
 おい、さっさとこっちにこないか!」

「千歳と申します」
しおらしく身体を曲げる。

嬉しそうに話す父親と、明らかに下衆な目でこちらを見る男。
本当に嫌気が差す。
そう思いながら、千歳は無理矢理微笑んだ。

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共学の学校に通っていた、その事実に男の顔が引きつったあたりで、
部屋の奥から黄色い声が上がる。

何だ、とそちらを向くと、その輪の中心にいる人物だけ光が当たったように輝いている。

八神 志恩(やがみ しおん)

昔ながらの家柄は無い、貿易で財をなした人物だ。
色素の薄い髪と目。誰か血縁に外国の人でもいるのだろうか。
スラリと高い身長と柔らかい笑顔。
たとえ家柄は無くとも、若い女性が心惹かれるのも無理はない。

「チッ、あの成金が。」

そう言って醜い顔をする父親を冷ややかな気持ちで見つめる。
今や、その成金にだって頭を下げて救ってもらわないといけない状況を、この人は分かっているんだろうか。

残念ながら父の意図に反して、今夜も有力な娘の嫁ぎ先は見つからなさそうだった。

人の口に戸は立てられない。

園池家が株に手を出し、結果、暴落した末の借金を背負っているのは周知の事実。
結婚適齢期の娘は、この時代に共学に通っていた変わり者。

たとえ美しいと称される見た目でも、
華族も成金も、求めているのは家柄と資産。

父はいつになったら気付いてくれるのだろう。
そう考え、またため息をついた。
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