明治、禁じられた恋の行方

「こちら、貿易商をされている、八神志恩様と、日本の古くからの公家、近衛家の娘様でいらっしゃる、華様です。」

千歳は凍りそうな空気の中、夫婦に笑顔を見せていた。
夫婦はほ、と安心した表情をし、会話は和やかに進む。

志恩の隣には、追いついてきた華が、ぎゅぅ、としがみつき、
千歳に鋭い視線を投げている。


八神さんと千歳さんはお知り合いなんです、と、麗斗はにこやかに夫婦に伝えた。


「まさか。千歳さんがここにいらっしゃるとは。」


商売相手に挨拶をした後、志恩はにっこりと笑って言った。


千歳を放り出したのは、誰でもない、自分だ。
麗斗を頼るのも、当然のこと。
怒る権利は無い。

そうは思うが、麗斗が千歳のフォローをする度に、嫉妬で身を焼かれそうな自分を抑えていた。


千歳も、混乱する自分の気持ちを制御出来ないでいた。

その子はだれ、志恩。
どうしてそんなに、当然のように、あなたの隣にいるの。


「通訳は参加者名簿には載りませんので・・・」


千歳の答えに、そうですか、と感情の読めない笑顔で志恩が言う。


表面的には、問題なく会話が進んだが、
名刺も交換し合い、それも終盤に差し掛かったとき、
最中も千歳を睨みつけていた華が、突然口を開いた。


「志恩、この方とはもう、お話になりませんよね。」


通訳も出来ず、カチン、と千歳は固まる。


「志恩、あなたから何か、言って差し上げて。」


華を鋭い目で見る志恩をにこりと見返し、
彼女は、口に手をあて、こそ、と囁いた。

お父様に、言われたくなければ。


志恩の顔が一瞬歪む。

そして、千歳の目を真っ直ぐに見て言った。


「あぁ・・・そうですね。」

「この方がいらっしゃると知っていれば、
 私は、ここには来なかったでしょうね。」

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