Shine Episode Ⅱ

籐矢の復帰を祝う仲間たちとにぎやかな夜を過ごした。

まだまだ騒ぎ足りない様子の仲間を残し、籐矢と家族を送るために水穂はソニアの家を早々にあとにした。

主役を欠いても彼らのパーティーは続いており、にぎやかな声とソニアに見送られ街へと向かった。

征矢親子をホテルまで送り、籐矢のアパートにたどり着いたのは日付が変わる少し前だった。

部屋に入ったものの籐矢を意識しすぎて、それまでの軽口が出てこない。

いたたまれず 「帰ります」 と言い出した水穂を籐矢の手が引き止めた。



「もう帰るのか」



水穂は返事を迷った。

一つ目の秘密は籐矢の家族が来ていること、二つ目の秘密はまだ明かしていない。

言ってしまおうか、このまま黙っておくか、まだ決めかねていた。

黙ってしまった水穂へ思いもかけない言葉がかけられた。



「おまえ、まだソニアの家にいるんだろう?」


「そっ、それね。いつまでもお世話になるわけにいかないと思って、だから」


「ここに越してこないか」


「えっ?」


「部屋数もある、広さも十分だ。一緒の方が安全だ」


「えっと、それはわかるけど、ちょっとまずいと思います……」


「どうして、わけを言え、わけを!」


「一緒ってことは同棲ってことですよね。仕事で赴任してるのに同棲はまずいです」


「まずいことはない、ルームシェアだと思えばいい」


「ルームシェアですか……はぁ、なるほど」



まさか一緒に住もうと言われるとは思わず、水穂は二つ目の秘密を言い出すタイミングを失っていた。



「感心してる場合か。えっ、どうだ、返事をしろ」


「はっ、はい、あのですね」


「なんだ」


「部屋を見つけました」


「はぁ?」


「で、引っ越しました」


「なんだと? どこだ、どこに越したんだ!」


「ちっ、近くです」


「近くってどこだ、歩いていけるところか」


「いけます」


「ここからどれくらい離れてる」


「どれくらいって……」


「そんなこともわからないのか!」


「怒鳴らないでください、近所迷惑です」


「……そうだな」



やけに小さな声になった籐矢が、また 「どこだ」 と聞いてきた。

水穂もつられて小声で返事をした。



「そこです」


「そこって、どこだ」


「だから、そこですって」



籐矢が水穂の視線をたどる。

部屋の壁を見つめた目に怪訝な顔をしていたが、突然 「あっ」 と声を上げた。

そこなのかと聞かれて水穂はコクンとうなずいた。

隣室は空き部屋である、水穂はそこへ越してきたのだ。

籐矢の顔に笑みが広がった。



「水穂」



名前を呼ばれたが、水穂は赤くなった顔を隠すようにうつむいた。

嬉しさを隠せない籐矢は水穂を引き寄せ、腕に絡めとられた体は素直に胸にもたれてきた。

頭を抱え赤くなった耳元に籐矢がささやく。



「泊まっていけよ」


「でっ、でも……」



水穂の耳がさらに赤くなる。



「帰る心配はいらないだろう? 隣なんだからな」


「そうですけど……ほら、神崎さんはまだ病み上がりですから、むっ、無理はいけません」


「無理はしない。あぁ、それとも情熱的に迫ってほしいか?」


「そんなこと言ってません! 私は神崎さんの体を心配して言ってるんです」


「医者が言うには普通の生活に戻っていいそうだ。言ってる意味、わかるか?」


「わっ、わかりません!」



真っ赤になって怒鳴る水穂の顔へ、籐矢は余裕の顔で近づいた。

顔を背けたが唇はあっけなく奪われ、水穂は甘い束縛に抵抗をあきらめゆっくり目を閉じた。

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