夏が残したテラス……
由梨華は、スプーンを握り直し、二口目を口に入れた。そのまま手を止めず、スープを口に運び続けた。


「俺の分は?」

「えっ。飲むの?」

「当たり前だろ」


 由梨華が、顔を上げた。

「おいしい……」

 由梨華の青白かった顔に赤みが差していた。そして、すこしだけほほ笑んだ気がした。


「外、寒かったから旨いだろ?」


「うん…… もっと、早く気付けば良かった」

 由梨華の目が滲んだ。


「今だから、気付くんだよ。アホだって分かった時になぁ……」

 海里さんは、意味あり気に私を見て、軽く笑った。


「何よ、それ! いつでも美味しいとか言ってくれればいいじゃない!」

 私も海里さんを見て、睨んだ後に顔を緩めた。


「ほんと、アホみたい…… 海里さんとあなたって…… なんだろ…… 同じ波に乗っているみたい。とても一緒にはついていけないわ……」

 由梨華は、大きくため息を着くと、最後の一口を飲み干した。


「海里さん、また、アホって言われちゃったね。あははっ」

 私は、なんだか可笑しくなって笑い出してしまった。


「俺だけじゃないだろ」


「えーっ。あははっ」

 私は、海里さんと目を合わせて笑った。


「ほんと、何だろ…… アホらしくなってきたわ…… あははっ」

 由梨華さんも、泣きながら笑い出した。


  今、由梨華がどんな気持ちでいるのかは分からないけど、きっと、いつかまた、ここにスープを飲みに来て欲しい。

 今は、心からそう思える。
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