夏が残したテラス……
店のテラスから、海里さんと並んで海を見つめる。

 海の色が、オレンジ色に変わり出した。

「奏海……」

 海里さんが優しく私の名を呼んだ。


「何?」

 海里さんの方へ目を向ける。
 向き合った海里さんは、じっと熱い目で私を見た。


「俺と、結婚して下さい」


 海里さんは、ポケットから小さな箱を出した。
 私は、驚き過ぎて、声を出す事出来ない。

 蓋を開けて差し出された箱の中には、キラキラとダイヤの着いたリングが輝いていた。
 海里さんは、リングを取り出し、私の手をそっと握った。

「いい?」

 海里さんが、少し不安そうに聞く。

 大きく肯いた私の薬指に、すっとリングが贈られた。

 海も、私達もオレンジ色に染まる。

「必ず、この店も奏海も俺が守るって決めていた……」

 海に沈む夕日に反射された海里さんの顔に、私はこの人が世界中で一番大切だと思った。

「海里さんが好き……」

 私の目から、自然と涙が溢れ海里さんの胸に蹲った。


 海里さんの胸から、顔を上げ海を見る。


 海里さんは、私を後ろから抱きしめるように向きを変え海を見つめた。

 ゆっくり沈む夕日と交代するように、リゾートホテルの、まったりとした灯りが漏れる。


 波の音が、ここちよく耳を掠めていく……

 このテラスから、何度、色々な想いを胸に海を眺めただろう……

 色々な気持ちが、積み重なって今を作っている………

 でも、必ず、これからは海里さんが隣にいる……

 私は、ずっと、海里さんに付いていく……

 からだ中で感じる、海里さんの暖かさが全てを語ってくれる……

 また、次の夏の海からの風が吹く……


 そして……
 これからも、色々な想いが、このテラスに残されていくのだろう……
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