夏が残したテラス……
「これ以上、奏海さんを悲しませないで下さい。あなたより、俺の方が奏海さんにふさわしいと思いますが……」


「なんだと?」

 俺の、怒りが頭を突き破ったのが分かった。

 俺は、ゆっくりと振り向き、目が鋭くなったのが自分でも分かる程、高橋を冷たく睨んだ。

 高橋が、後ずさりした。
 だが、俺は睨み続けた。


「そ、そんな顔するくらいなら、自分の女の後始末ぐらいきちんとして下さい」

 高橋は、声を震わせながらも、俺に突っかかってきた。

「どういう事だ?」


「志賀グループの志賀海里さん。なんで、あなたみたいな人がここにいるんですか?」


「お前には関係ない! 奏海は、俺のものだ。俺が守る! 二度と下手な真似したら、俺がお前をぶっ潰す」

 俺は、もう一度、高橋を睨むと、奏海を探そうとしたのだが……


 胸のスマホが震えた。着信を光らせているのは、父からだった。
 俺は、仕方なくスマホを耳に当てる。父からの電話など初めてに近い。リゾートホテルの買収についての、重要な段取りについてだった。


 大阪に戻らなければだ。
 でも、奏海が……


 その時、二階へ上がろうとしていた美夜さんが、俺に向かって肯いた。

 俺は、目で美夜さんに奏海を託し、入り口のドアを開けた。


 俺は、胸のイライラを抱えたまま車に乗り込んだ。

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