夏が残したテラス……
 テラスに立ち、しばらく眺めていが海から上がる人達の姿を確認すると店の中へと向かった。


 いつもと変わらない朝。

 いや、風だって、波だって、毎朝同じなんて事はない。

 だけど、いつもと変わらないと、いいかせていただけなのかもしれない。



 白崎奏海(しらさきかなみ)、二十二歳。

 ショートパンツから伸びた足はバランスよく伸び、高めの身長のわりに小さな顔は、目鼻立ちがハッキリし、美人なのだが本人には全く自覚がない。

 父親の経営するマリンショップで働き出して二年になる。

 短大を出たにもかかわらず、迷いなくこの店で働き出した。


 父がこの店を始めたのは六年前。

 その頃から、店の手伝いをしていた。

 海が大好きだった母は病気がちで、いつでも海が見られるようにと、父がこの店を始めた。

 だが、三年前肺炎を拗らせ、母は亡くなってしまった。


 海岸を見下ろすように少し高い場所に建てられ、二階を住宅としたこの店は、どこを見ても母との思い出でいっぱいだ。


『おはようママ。今日は天気もいいし、最高の波が来てる。忙しくなりそうよ』


 窓から見える海に向かって言うと、長い髪を一つに纏めキッチンに立った。


 モーニングの準備だ。

 母が残してくれたレシピ。

 もう見なくても頭の中に入っているが、ノートを捲り確認すると棚に戻した。
< 2 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop