夏が残したテラス……
 高橋くんは、軽く挨拶をすると「また明日」と、帰って行った。



 ママの仏壇の前に、美夜さんが手を合わせている。

 美夜さんは、ユウちゃんの姉で、私が小さいころから、姉のように慕ってきた。

 でも、一年前に結婚して北海道に引っ越してしまった。

 その時は、おめでとうって言いながらも、淋しくて大泣きしてした。

 そして、ママとも仲良しで、よくこの店を手伝ってくれていた。



「もう、三年になるのね……」

 美夜は、合わせた手を膝の上に戻し、ママの写真を淋しそうに見た。


「うん。まだ、朝目が覚めると、ママがキッチンに立っているんじゃないかって思う時がある」


「そうね…… 居るかもね。今も、美夜結婚生活どう? って、聞かれた気がする」

 そう言って美夜は、ふっと笑った。


 開いた窓からふわ―っと、海からの風が入った。



「明日、お墓一緒に行くわね」


「えっ。覚えていてくれたの?」


「当たり前じゃない、明日は梨夏さんの命日だもの」


「うん……」

 私も、ママの写真を見つめた。


「ねえ? ユウはちゃんとやってるのかしら」

 美夜は少し困ったように、私の方へ目を向けた。



「うん、今年も手伝ってくれている。愛変わらずだけどね」


「あいつ、彼女とか居るのかな? 遊んでばかりいる歳じゃないのに」


 彼女と言う言葉に、紛れていた胸がズキンと痛んだ。


「さあ…… でも、楽しそうだけど」


「はあ―。 海里は、今年も手伝っているの?」


 私の胸が、ドキっと大きな音を立てた。

 美夜に聞こえてしまうんじゃないかと、思わず目を逸らしてしまった。


「うん。もちろん」

 私は、何かを誤魔化すように声を上げて言ってしまった。


「そうなんだ…… 海里も……」

 と、言い掛けて美夜さんは口を閉じてしまった。


 私は、その続きを促すように美夜を見たが……


「皆、相変わらずで良かった。明日は、久ぶり潜りたいな? スケジュールに開きありそう?」


 元気のいい声になんだか誤魔化されてしまった。


「うん。パパが明日は、四回ボート出すって言ってたから」


「よし!」


 美夜は、腕を伸ばし首をくるりと回した。


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