夏が残したテラス……
美夜さんは、私の横に並び海に向かって大きく深呼吸をした。


「ああ、気持ちいい。やっぱりここからの眺めは最高ね。それに、海からの風が気持ちいい」


「うん」

 私も、大きく深呼吸をした。

「ねえ? 奏海は、好きな人とかいるの?」

「えっ?」

 私は、一瞬何を聞かれたのか分からず、パチパチと瞬きを繰り返してしまった。


「そんなに驚く事じゃないでしょ? 奏海だって、もう二十二歳でしょ。彼氏くらいいたっておかしくないわ。ううん、遅いくらいよ」

「そ、そんな事考えたこともない……」

 私は、なんとなく自分が避けていた事に触れられたようで下を向いた。
 目の中には、さっきもらったブレスレットの石が映り、勝手に手の先で触れていた
 
「ウソでしょ? 全く不健康ね!」

「不健康って?」

 私は、下を向いたまま眉間に皺を寄せた。


「気付いてないかもしれないけど、奏海は、かなりの美人よ。店の客とか、あんたの事チラチラ見ている人多いわよ」


「そんな事ないと思うけど……」


「全く鈍感なんだから!」


「鈍感、て? 失礼ね」

 私は顏を上げると頬を膨らまして、美夜さんをじろっと睨んだ。


「ふふっ…… その胸のモヤモヤが何なのか、胸に手を当てて考えてみるのね?」

 美夜さんは、ふふっと意味あり気に笑って私を見た。

「えっ?」

 私は、またまた驚いて、目を見開いてしまった。
 気付かれないようにしていたのに、何で胸のモヤモヤが分かってしまったのだろう?

「まあいいわ。いくらでも、相談に乗ってあげるから。そのブレスレット、奏海によく似合ってるわよ」

 美夜さんは、また、海からの風を大きく吸い込んだ。

 私も大きく吸い込んだのに、なんだか大きなため息のようになってしまった。

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