氷室の眠り姫


しばらく考え込んでいた紗葉が選んだのは石自体に細かい花の彫刻が施されたローズクォーツのブローチ。

「石の名前は知りませんが、色合いや繊細な彫り物が個人的には一番好きです」

「そうか…」

紗葉の言葉に青年が少し嬉しそうに微笑んだのを見て、紗葉の胸がドキンッと高鳴った。

「!?」

初めての感覚に紗葉が後退りかけるも、青年が紗葉の手を握った。

「これは俺も気に入ってるデザインなんだ。ありがとう。それで今更だけど、キミの名前は?」

「………プッ」

本当に今更な感じがして、紗葉は思わず吹き出した。

「本当ですね。でも、人に名前を聞く時は自分から名乗るものですよ」

にっこりと微笑みながらもハッキリ意見を言う紗葉に一瞬目を見開くも、すぐに破願した。
その笑顔に紗葉の顔がボッと赤く染まっていく。

「それもそうだな。俺の名前は流。我が家は宝石を扱っているんだが、装飾品も手掛けようと勉強中なんだ」

「わ…わたしは紗葉と言います。父が薬師をしていて、その関係でここに」

「あぁ、薬師はこの国になくてはならない存在だしな。キミも将来は薬師になるのか?」

「……どうかな?我が家には兄がいるからわたしが薬師になる必要はないの。でも、手伝いはどんな形でもすることになるかな」

どことなく陰を感じさせる紗葉の笑みに流は眉をしかめたが、紗葉はそれに気付かない。

「……キミは、紗葉…ちゃん?って呼んでもいい?」

「流さんのが年上ですよね?お好きなように呼んでもらってかまいませんよ」

「じゃ、遠慮無く。紗葉ちゃんは花には詳しい?」

思いもよらない質問に、紗葉は首を傾げながらも頷いた。

「花も薬を作るのに使用することがありますから、ある程度は…」

「なら教えてくれる?モチーフにしたとしても実は毒花でした、なんてシャレにならないからね」

その言葉に紗葉は虚を付かれたが、すぐにクスクスと可笑しそうに笑った。

「少なくともこの庭園に毒花が植えられているとは思えませんけど。でもそうですね…花言葉なんて知っているとアプローチしやすいかもしれませんね」

「花言葉か…成る程。そこから考えるのも有りだな。それで、教えてもらえる?」

少々押しが強い気もしたが、嫌な気持ちになることもなく、笑顔のまま頷いた。




こうして二人は出逢い、交流を深め、想いを寄せあい、確かめ、そして結ばれた。


いずれ別れがやってくるとは思わずに……




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