エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
……先に、ホテルに戻ってよう。
私はおぼつかない足取りで、コツ、コツ、とヒールを鳴らしながら歩きはじめる。
けれどその直後急に頭が重くなって、体がゆっくり地面に向かって傾いた。あ、転ぶ――。そう思った時にはアスファルトの灰色がもう目の前で。
がん、と激しく頭を打ち付け、段々意識が朦朧としていく。
「……巴? ちょっと、どうしたの!」
そのとき、遠ざかる意識のなかで、ここにいるはずのない親友の声がした。
そうだ……東京に戻ったら、露子に全部、ぶちまけよう。きっと彼女は怒ってくれるから、ふたりで一誠さんのことをボロクソに言って、そしたら……少しは気が晴れるかな……。
そんなことを思っているうちに、私はいつしか気を失っていた。
*
目を覚ました時、私は病院の処置室のベッドの上だった。
といっても、転んだ時にぶつけたおでこに巨大なたんこぶができているほかは健康そのものらしく、医師にはすぐに帰っていいと言われた。
……どうしてこうなったんだっけ。と考えながら、医師にお礼を言って処置室を出ると、目の前の廊下のベンチにふたりの知った顔が座っていて、私を待ち受けていた。