再会はオペ室で
「お疲れさん」
貴島はストレッチャーの前を歩く藤田と美鈴に声を掛けた。藤田と美鈴が「お疲れ様です」と返すと少し微笑んでから、手術を終えたばかりの少年の顔を覗き込む。麻酔から一度は覚醒したものの、まだ少年の意識は薬の支配下にあった。貴島は小さな声で「よく頑張ったな。偉かったな」
と少年の顔を見つめた。

「素敵ですよね。貴島先生」
 ICUへの申し送りを終えてオペ室に戻るなり藤田光里が話し掛けてきた。特別に意識しているつもりはなくても、元彼というだけで他とは違う存在に思えてしまうのは私だけじゃないはずだ。美鈴は自分にそう言い聞かせた。
「そう?」
美鈴の素っ気ない口振りに、光里は眉間にシワを寄せた。
「奥井さん、まさかのブサメン好きですか?」
「何よ、それ。失礼な。でも顔だけで判断はしたくないかな」
「貴島先生は顔だけじゃないですよ。性格もいいし、オペの腕も最高だし、いま一番の注目株ですから!!」
「そんなに人気あるの?」
「ありますよ。めちゃくちゃあります。目が合っただけで妊娠する人多数です」
「何くだらないこと言ってんの。主任が見てるからこの話は終わりね。さあ仕事仕事」
「奥井さんクール過ぎです」
「そんなことないわよ。ただ、仕事場所にそういう感情を持ち込みたくないの」
「真面目ですねー」
「当たり前でしょ。ほら急いで。仕事、仕事」
 はーい、といかにもやる気のない返事をしながら後をついてくる光里に、美鈴は呆れたようにため息をついた。
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